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NEWSとKAT-TUNとハロプロ、ジャニハロDDヲタ、普段は二次元にいる

短編小説を書きました(2年前に)

 

JUMPのファンファーレ!に感じる死の匂い*1について久々にブログ書きたくなったんですが、あまりに久々すぎて息切れしそうなので、その前の準備運動的に関係ないブログあげとこうと思ったのでした

t.co

『少女企画 ひさかたのなつ』に書いたやつ

 

 

少女漫画のような恋ならよかった

 あたし、かわいいものが好き。それから、かっこいいひとが好き。

「話ってなに?」

 なんて、呼び出された時点である程度の見当なんてついてはいても、念のために訊いてみる。うちの高校は、定期テスト前の一週間は部活をしてはいけない。だからあたしは、ホームルームが終わったら友達のシゲちゃんと一緒にすぐ帰るつもりでいたんだけれど、六時間目にあたし宛ての手紙が回ってきたんだ。話したいことがあるから、放課後に弓道場の前に来てくださいって。弓道場はその名の通り放課後は弓道部が使ってるんだけど、今日は部活がないから無人で、渡り廊下が余計に寒く感じる。

「あの、トモちゃんのこと、ずっといいなって思ってて……それで、もしよかったらなんだけど、付き合って欲しい、です」

 あたしの前で真っ赤になっている子、つるんでいるグループは違うけれど、ときどき言葉を交わしたりはする、そういう距離感のクラスメートは、すごくすごぉーくかわいかった。健気に震える指先、あたしの返事を待たなきゃいけない時間に耐えるようにきゅっと結ばれた唇、忙しなくぱちぱち瞬かれる睫毛、濡れた黒目、豆柴みたいだった。身長もあたしより小さいし。そんな小さな身体で、めいっぱいの勇気を出して、告白しにきてくれたんだよね。ああ、なんて眩しい、なんて羨ましい。いいなあ。あたしはそんな風にかわいくも素直にもなれないから、すごいなって思う。だけどごめんね、あたしの返事は最初から決まっていた。

「好きになってくれてありがとう。でも、ごめんなさい。実は好きな人がいるんだ。だから、キミとは付き合えません」

 傷ついた顔に罪悪感が湧かないわけじゃない。でも、世の中には、どうにもできないことだってあるのだ。たとえばあたしが、あたしの好きな人とは、絶望的に付き合えないように。

 

「トモちゃん、まーた告白されたんだね。うっらやましい、なんでトモちゃんばっかモテるかなあ」

 冬のお日さまはタイムアタックでもしてるみたいな高速で沈んで、昏くなった駅までの道を、シゲちゃんと二人で歩く。シゲちゃんはぶつくさ言いながら、アスファルトを蹴り飛ばした。次はドロップキックでもするつもりなんだろうか。

「顔か、やっぱ顔か。顔がいいからか! お姉ちゃんも美人だもんなトモちゃんち。マイちゃんとトモちゃん、昔っから美形きょうだいだもんな!」

「やー、お姉ちゃんは、また別格っていうか……」

 あたしの8つ上のお姉ちゃんが、中三のときに家に連れてきた彼氏が、あたしの初恋だった。もうなんとなくしか顔を思い出せないのに、かっこよかったことだけは覚えている。小一のあたしにも優しくしてくれて、今思うとお姉ちゃんへの点数稼ぎだったんだろうなってわかるけど、ちびだったあたしの目にはヒーローのように見えた。お姉ちゃんはその後も何人かの彼氏を家に連れてきたけれど、そのせいであたしは、お姉ちゃんと好みがよく似てるんだなあということを思い知ったのだ。

「でもトモちゃん、告白されてもみんな断るよね。なんで誰とも付き合わないの、もったいない」

「だって、好みじゃないから」

「うっわあ贅沢!」

 ま、あんなお姉ちゃんを間近で見てたら理想も高くなりますわな、と、全然わかっていないシゲちゃんはスクールバッグを振り子のようにぐうんと振った。

「俺だって好きな子と付き合えたらいいなとは思うけどさ。そんな簡単じゃないよ」

「なに、片想いなんだ?」

「……うん。もうずっと」

 コンビニの明かりがあたしとシゲちゃんの顔を照らした。でも今日は、コンビニのあんまんよりも、駅ナカにある鯛焼きが食べたい。

「誰って訊かないの」

「訊いてもいいの」

「よくないし、訊かれても言わない、かな」

「じゃあ訊かないよ」

 片想いは辛い、実らないのがわかっているならなおさら。自分がいま色んなものが隠せていない顔になっている気がして、シゲちゃんのほうを見られない。ただ足を動かして、駅のエスカレーターを歩いて昇る。言えないことばかりで舌に載る苦みを、餡子の甘さごと飲みこんで忘れてしまいたかった。

 

 シゲちゃんと別れて家に入ると、玄関には踵の低いキラキラしたパンプスが揃えてあった。それはまるで、ガラスの靴のよう。

「お帰りー」

 柑橘の匂いが漂うリビングで、お姉ちゃんがミカンを剥いていた。あたしはコートを脱いで、マフラーと一緒に適当に椅子の背にかける。

「お母さんは?」

「夕飯の買い出しに行ってる。あ、ねえ、シゲちゃんに訊いてくれた? 結婚式の招待状送ってもいいかどうか」

「あ、忘れてた。ていうか招待状って送んなきゃ駄目なの? お隣なんだから直接渡せば?」

「でもこういうことってちゃんとしたいじゃん。あんたの年賀状とは違うのだよ」

 確かに毎年、元旦にお互いのポストに入れあってるけど。白い筋ごとオレンジ色の房を口に放り込んで、お姉ちゃんは甘酸っぱいミカンを食べ進める。

「そうだもひとつ、ねえ、シゲちゃんのフルネームってなんだったっけ。漢字わかる?」

「え、マジで言ってる?」

「……っいや、だって小さい頃からずっとシゲちゃんって呼んでたから!」

 少し黄色に染まった指をバツが悪そうに組みながら言い訳するお姉ちゃんに、あたしは小さく溜息をついた。

「しょうがないな。国に重いに、れいなは王偏に号令の令、奈良の奈だよ」

 国重玲奈。くにしげ、だからシゲちゃん。

「ありがと、メモっとく」

 お姉ちゃんはスマホを操作して文字を打ち込み、あたしは温かいお茶を飲みたくて、冷蔵庫のお茶をマグカップに注いで電子レンジにかけた。

「トモってシゲちゃん以外の女の子、家に連れてこないよねえ」

「シゲちゃん以外に仲のいい女の子いないし」

「あたし、シゲちゃんが妹になってくれたら上手くやっていけると思うんだけどなー」

 それはないな、と言うとお姉ちゃんはむくれた。

「なんでよ。ていうか、あんたあたしに似てモテるでしょうに、好きな子とかいないわけ?」

「俺にだって好きな子くらいいますー。かわいいっていうよりかっこいい系だけどね」

「へえ。ボーイッシュな子なの?」

 トモユキのタイプってそうなんだー、とお姉ちゃんが言う。……あたしの恋は、いつも片想いだ。

 

 

* * * *

ネーミングですがシゲちゃんは加藤シゲアキと見せかけて道重さゆみ、トモは山Pだった気がする

 

*1:見れば見るほど彼岸