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また今日も堂本光一を救えなかった

※この記事には一部ショッキングな、というかSHOCKのネタバレが含まれています。

 

 

 

 男がその依頼を受けたのは寒さも極まる2月のことだった。指定したバーに指定した時間ぴったりに赴くと、カウンターにはすでに一人の女が座っていた。他に客の姿は見当たらない。妙に思いつめた顔をした彼女こそが依頼者だった。男は女の横に座ると、馴染みのマスターにSweet Martiniをオーダーした。女の泣き腫らした目とおざなりに直した化粧が、落ちついた照明の中でもよくわかった。カクテルグラスが置かれる前に、男は沈痛な面持ちで、女に茶色いB5封筒を差し出した。

「報告書と、お借りしていた写真です」

 女は確認するように封筒を開けた。中にあった写真には、王子のような煌びやかな衣装を纏った、王子のように整った容貌の男性が写っていた。男性の名は堂本光一。1979年1月1日生まれ37歳、ジャニーズ事務所所属、KinKi Kidsのメンバーである。

「調査の結果、あなたの仰るとおりの現象が確認できました。彼は――――堂本光一は、死に囚われている。そうとしか思えない」

「こんなにたくさん」

 ぶ厚い報告書を読み進める女の目からは新しい涙がぼろぼろとこぼれ落ちていく。

「ああ、やっぱり彼は、何度も死に、蘇り、また死ぬ、そのループから抜け出せずにいるんですね……!」

「残念ながらそのようです。しかしまさか、これほどとは思いませんでした」

 そう言って、男は自分が書きあげ、今は女の手にある報告書の中身に思いをはせた。好奇心で引き受けた仕事だったが、調べるうちに恐るべき事実が浮かび上がっていき、男を戦慄させたのだった。

 

 初めは、そう、『人間・失格~たとえばぼくが死んだら~』という、もうタイトルからして不吉でしかないドラマについてだ。このドラマにはKinKi Kidsの二人がそろって出演していた。そして堂本剛は壮絶ないじめのすえ死に、堂本光一は自殺を図り昏睡状態に陥り、その後かろうじて一命はとりとめたものの、精神に退行をきたし幼児も同然になってしまう。彼ら以外の周囲の人間たちも殺したり殺されたりした。彼に手を伸ばす死神の存在を感じとり、男は思わず自分の後ろを振り返った。

 

 彼の行くところ、常に死がつきまとっていた。調べるほどに男の確信は深まっていった。『家なき子2』で堂本光一は燃え盛る屋敷の中で焼死する。周囲の人間も殺し殺され大勢死んだ。『銀狼怪奇ファイル』では彼の内にある二重人格のうち、片方の人格が消失=精神の死を迎える。周囲の人間は当然のように大勢死んだ。『若葉のころ』ではまたしても死にかけて昏睡状態に陥る。もちろん周囲の人間は死んだ。『勇気ということ』では事故にあって死にかけ下半身不随になり、『僕らの勇気 未満都市』では彼自身は生き残るものの周囲の人間は次々続々死に、『ハルモニア この愛の涯て』では死を覚悟したが死なずも周囲の人間が死んだり死にかけたりやっぱり死に、『天使が消えた街』では撃たれて死にかけ、言うまでもなく周囲の人間は死に、『リモート』も『天才探偵ミタライ』も『陰陽師』も、周囲の人間はこれでもかと死んで死んで死にまくった。『スシ王子!』ですら、人が死んだのだ。こんなコミカルなタイトルの作品で人死にを出せるのだからその死神ポテンシャルは常軌を逸している。金田一一を演じた堂本剛と合わせて、いったいどれだけの数の死を撒き散らしたのか。もはや呪われているとしか思えないのでお祓いに行った方がいいのではないだろうか?

 

 男は濃い死の匂いを振り払うかのように頭を振った。続いてパソコンに『昨日公園』と打ち込む。自分の周囲の人間が死に続けることに気付いたのか、堂本光一は、親友の死を回避するために時をループし何度もやり直すようになった。しかし何度繰り返しても結局親友は死んでしまうどころか、被害に巻き込まれる人間が増えていく。彼は絶望し、全てを諦めループを停止した。親友ただ一人が死に、繰り返すことのない日常が戻った。しかし数年後、今度は彼が、親友と同様に幾度ループしようとも逃れられない死の運命に捕まってしまうという悲劇的な結末を迎える。

 ダン、と机を叩く音が部屋に響いた。男は今や怒りすら覚えていたのである。この世界は堂本光一になにか恨みでもあるのか、一人の人間にあまりにも過酷な運命を背負わせ過ぎじゃないのか。誰か彼を救ってくれ。誰も死なない穏やかな暮らしを送らせてやってくれ。こんなだから愛のかたまり心中バージョンだなどと言われるんだ。

 

 男はパソコンに向き合い、報告書の最後の仕上げにかかった。しかし、依頼者は堂本光一が死と蘇生をかなりの回数繰り返しているのではないかと疑っているようだったが、実際に死んだのは二度だけのようだ。さしずめ、『堂本光一は二度死ぬ』と言ったところか……。そんなことを考えながら、Wikipedia堂本光一のページを確認し直す。

 

 ――――いや待て。

 恐ろしい見落としをしていることに気付き、男はぞっと背筋が冷たくなるのを感じた。PC画面には、堂本光一のライフワークと言ってもいいある舞台のタイトルが燦然と輝いていた。SHOCK。男は過去に何度かEndless SHOCKを見たことがあった。そうだ、舞台の上で、堂本光一は死ぬ。死ぬのだ。男は世界に問いかけたい気持ちでいっぱいだった。なんで光一すぐ死んでしまうん?

 男はガチガチと歯を鳴らし、震える手で電卓の数字を押していった。2000年に始まった舞台『SHOCK』は、2005年にシナリオを大幅に一新する『Endless SHOCK』へと変わった。『Endless SHOCK』の各公演日の中で、堂本光一は生きて、そして死ぬ。つまり、2005年から2016年の3月31日まで、10年以上死に続けていたことになる。二度死ぬどころではない、76公演、+、76公演、+、81公演、+……実に1150を超える数、生と死を繰り返している。なんという精神力だろう。常人なら気が狂うのではないか、と男は電卓に表示された数字を見つめた。さらに恐ろしいのは、『Endless SHOCK』が間違いなく素晴らしい舞台であるということだ。

 

 

「……飲まないんですか?」

 女の声に、男ははっと我にかえった。カクテルグラスには酒が手つかずのままになっている。

「随分考え込んでいらしたみたい」

「いや……ええ、そうですね。Endless SHOCKを観たときのことを思い出していました」

 女は赤い目もとのまま微笑んだ。

「わかります。彼にもうこれ以上死んでほしくない、そう思う気持ちは本物なのに……また来年もSHOCKが観たい、チケットを取ろう、そう思ってしまうの」

 

 堂本光一は死ぬ。死に続ける。

 彼を愛し、彼の舞台を愛する人間がいる限り。

 

 

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そろそろ怒られるんじゃないかと心配です。